(写真提供:読売新聞社)
2023年シーズン、阪神タイガースは1985年以来、実に38年ぶりの日本一に輝きました。「ミスタータイガース」の愛称でファンに愛され続ける掛布雅之さんは、ここまでの阪神の歩みをどのように振り返り、現在の球界をどう捉えているのでしょうか? その著書『虎と巨人』から一部を紹介します。

王さんから教わったホームランの極意

若い頃、通算868本塁打のプロ野球記録を持つ王貞治さんが極意を教えてくれました。

「掛布君、ホームランの数を増やすのに必要なことは、バットを振ることではなく、ボールを見極める我慢だよ。ホームランを打てるボールが来たら振る勇気を持ちなさい。そして、そのボールを仕留める技術を身につけなさい。これがないとホームランは増えません」

と言うのです。王さんの残した数字がそれを実践したことを物語っています。

驚くことに四球数は毎年、試合数と同じぐらい稼いでいるのです。1974年の158四球は今でもシーズン最多記録です。130試合制の時代なので、現在の143試合制なら170は超えていたでしょう。一振りで仕留める技術もまさにその通りで、ファウルが少ない打者でもありました。

プロでもボールの見極めが下手な選手がたくさんいます。巨人の阿部慎之助監督と話したときに「練習では打つことが大切。試合では見極めることが大切なのに分かっていない」と嘆いていました。

確かに私も練習ではボール球も打ちますが、試合では振りません。ボール球にスイングをかける場合は、自分の中でストライクと思って勝負しているわけです。

たとえワンバウンドの球を振っても、気持ちの中ではストライクを打ちにいっているのです。試合を見ていて「本当にストライクと思って振っているのだろうか」と思うことがよくあります。