一度もない阪神V・2位巨人
王さんの1球に懸ける集中力は、巨人という勝利が宿命づけられたチームを背負う主砲としてのものでした。「絶対に勝たないといけない」という空気は阪神も含めて他のチームにはないものです。
田淵さんが1973年に優勝していれば、「俺の野球人生が変わっていた」というのは、そこなんだと思うのです。チーム一丸で戦う常勝軍団の巨人と、個がバラバラで戦った阪神。田淵さんの打席は優雅さが魅力ですが、王さんのような厳しさはありませんでした。
絶対王者として君臨していた巨人のV9を阻止していれば、勝つ味を覚えた田淵さんが、王さんや長嶋さんのように本当のチームリーダーとなり、阪神を常勝軍団に変えていたかもしれないのです。
2023年の阪神は18年ぶりにリーグ優勝を飾り、1985年以来の38年ぶり日本一に輝きました。巨人は4位で一度も優勝争いに絡むことはできませんでした。
阪神の6度のリーグVで2位・巨人という並びは歴史上1度もありません。阪神は何度もマッチレースで涙を飲んできましたが、逆に阪神がゴール前の競り合いで巨人に勝ったことは1度もないのです。
あの1973年のマジック1からのV逸の悔しさをいまだに払拭できていないと言えるのです。
※本稿は、『虎と巨人』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『虎と巨人』(著:掛布雅之/中央公論新社)
1985年以来、38年ぶりの日本一に輝いた阪神タイガース。
2年連続のBクラスに沈み、阿部慎之助新監督のもとで戦う読売ジャイアンツ。
ファンに愛され続ける“ミスタータイガース”が、「伝統の一戦」を繰り広げる二つのチームについて、その魅力を語りつくす。