極真空手から寿司ビストロオーナーへ

元々は極真空手の指導員だった西尾さん。飲食の世界に飛び込むことに決めたのは、道場生と食事をしているときだったそうです。

「居酒屋で食事をしながらいろいろなことを語り合っているうちに、ふと、飲食店は道場と同じように人間形成の場だなと感じたんです。空手は神聖なものだと思っていましたから、僕にとってはお金を稼ぐ手段ではなかった。そこで、共通点を見つけた飲食店で生計を立てようと。道着を脱いで飲食業に飛び込むことにしました」

飲食業への道を決めてからは、活動の拠点として、まずは海外へ。

「空手に世界大会があるように、世界から日本を見てみたいと、ワーキングホリデーでカナダに行くことにしたんです。出発までの半年間、回転寿司店で働きました。寿司は海外でも人気ですから、就労ビザも取りやすいと思って。短い修行期間だったので、実際にカナダの寿司店では苦労しましたけれど、空手がコミュニケーションのきっかけとなってね。休み時間に空手をみんなに教えて、彼らからは料理を習って。また別のお店に移ってからは、寿司だけでなく和食・フレンチも学びましたよ」

結婚を機に日本に帰ってきてからは、回転寿司店に就職。

「日本で働き始めて数年して、小田原店の店長を任されました。ところが近くに大手チェーンの回転寿司店がオープンすることになったんです。まいったな、どうしようかと頭をひねりましてね。日本ソムリエ協会の田崎真也さんが世界大会で優勝した年でしたから『そうだ、回転寿司だけれどワインを出してみよう』とグラス売りを始めました。

だけど、当時ワインはまだ売れなかったんです。抜栓してしまうと、長期間保存しておけずにダメになってしまうし。それでビールへ路線変更し、瓶のベルギービールを300種仕入れました。栓を開けなければ何十年と日保ちするものも多くて。そうすると、寿司とベルギービールの飲める店だと話題になり、『大人の遠足』として全国から沢山のお客さんが来てくれたんです。

そのうち、ビールに合うつまみのメニューが欲しいという声を多くいただき、カナダで習ったフレンチでメインの料理を出すようになった。すると今度はワインを飲みたいとリクエストが増え、各種取りそろえていきました」

2009年の7月に独立をして、「あじわい回転寿司 禅」のオーナーになった西尾さん。「寿司ビストロ」としてお客さんからの要望に応えるうちに、さらにメニューやお酒の種類が増え、進化を続けています。

「オープン当時は煮込みが多かったビストロメニューですが、短い時間で提供できる方法を試行錯誤したことで焼き物のメニューも増えています。これからも、お客さんの『こんな一皿が食べたい』に応えていきたいですね」