家族には家族の苦しみがある

とはいうものの、2度目の手術の後は、舌がんの手術後のリハビリでできるようになったことすら難しくなっていて苦しみました。たとえば、しばらく絶食していたため、嚥下する力が弱くなっていました。舌の筋力も、トレーニングを休んでいる間に衰えてしまった。前へ進んだつもりが後退していることに苛立ち、夫に「つらい」とこぼしたことも。

でも、彼に「今は2人に1人ががんになると言われる時代。僕だっていつ同じ思いをするかわからないよ」と言われ、はっとしました。

入院前に家族の前で泣いてしまった時もそうですが、私は、病気を抱えた自分の苦しみばかり見ていて、家族には家族の苦しみがあるということに思い至る余裕がなかったのです。夫や子どもたちの思いにも目を向けなくてはいけない、と気づかされました。

本音では、病気になってよかったことなんて一つもないと思っています。やっぱり病気にはならないほうがいい。でも、「キャンサー・ギフト」という言葉もあるように、病気のおかげで学んだこと、与えてもらったことは山ほどあるんです。

舌がんという病気のことも、以前はまったく知らなかったけれど、早期発見できれば、命を失ったり、ここまで話しづらくなったりせずに済むこともわかった。気になる症状があったら、すぐに大きな病院で診てもらうべきであるということも。これからは、私が体験してきたことをたくさんの人に伝えていきたいと思っています。

少しでも早くしゃべれるようになろうと、リハビリのために声を出して絵本などを読んでいるのですが、1冊読み終わる頃には顎が疲れてしまってぐったり。しんどいと思うこともあります。

でも、昔、子どもたちに読み聞かせをしたことを思い出したんです。いまは、いずれ孫に読み聞かせすることを目標にがんばっています。それから、歌をもう一度歌えるようになることも、必ず実現したいことの一つ。夫や娘と一緒にカラオケに行って自分の歌を歌うことが、いいトレーニングになっているんですよ。

家族で一緒にすごせること、おいしくご飯が食べられること、歌が歌えること──。以前は当たり前だったそんなささやかな幸せも、失いかけて初めてそのありがたさに気がつきました。すべてに感謝して生きていきたい、いまはそう思っています。

体調が良くなくて、つい後ろ向きになりそうな時もあります。でも、家族や友人、医療スタッフ、ブログを読んで励ましのメッセージをくださる方々……いつも誰かがそっと支えてくれている。だから私は、前を向いて歩くことができます。私は一人じゃない、そう思う毎日です。