退院の直前になんと食道がんが

検査からひと月後の2月22日。舌を6割以上切除し、切除した部分に太ももの皮膚を移植、あわせて首のリンパ節に転移した腫瘍を切除する郭清(かくせい)手術を受けました。口腔外科、耳鼻咽喉科、形成外科の合同チームによる12時間に及ぶ手術でした。

術後は3日間ICUに。頭は固定され、口には舌に移植した肉の塊がはさまれ、体中に管が通った状態で目覚めた時、「生かされてしまった」と感じました。娘の言葉に背中を押され、自分の意志で手術室へ向かったはずなのに、それを悔やんでしまう私。激しい痛みにも襲われ、そんな自分をどうすることもできなかった。

寝たきりの状態で手鏡を渡された時に、自分の顔を初めて目の当たりにしました。顔の左半分と首が腫れ上がり、肉の塊がはさまった口は半開き状態。その顔を見た時、死んでしまいたい、と思いました。

命を救っていただいただけでも、ありがたいと思わなくてはいけないのはわかっているけれど、こんな状態で、私はこれからの人生をどう生きればいいのだろうという、絶望感と不安感。気管に穴を開けて呼吸をしている状態のため、声は出せなかったけれど、心はうめき声を上げていました。

ようやく気持ちを前向きに立て直すことができるようになったのは、一般病棟に移ってからのこと。手術後の病理検査の結果が出て、舌がんは取り切れたと聞かされた後です。なんとか奇跡を起こして、しゃべれるようになる、そう信じてリハビリにも励み、3月26日に退院することができました。

死の恐怖を乗り越えて見つけたものとは
『Stage For 〜舌がん「ステージ4」から希望のステージへ』
堀ちえみ 扶桑社 1300円(税抜)

ところが、退院の直前に受けた胃カメラ検査で、なんと食道がんが見つかってしまって。仕事復帰を目標にがんばろうと思っていましたが、この時はさすがにすっかり心が折れてしまいました。精神的には、舌がんの告知を受けた時よりダメージが大きく、初めてがんという病気に対する恐怖を感じたのです。

検査の結果、食道がんも早いうちに取り除いたほうがよいと言われ、4月15日に再入院して手術を行うことに。入院の前日、私は心が乱れ、家族の前で泣いて泣いて……、みんなをすっかり困らせてしまいました。

手術は1時間程度の内視鏡手術で済み、すぐに退院できたのですが、病理検査の結果が出るまでは落ち着かない状態が続いていました。そして、5月2日、ようやく出た検査の結果は、ステージ0の初期がん。内視鏡手術ですべて取り切ることができており、追加の治療は必要なし。この時の安堵感は忘れることができません。

考えてみれば、食道がんをこんなに早期に発見できたのは、舌がんの手術を受けたから。夫は「君は運がいい、ラッキーだ」と言いましたが、本当にその通りだと思いました。