「敵がいないと、また住民たちはばらばらになるでしょう。人は気紛れなものです。だから、交渉を続けるんです」
「憎まれ役を引き受けろとおっしゃるんですね?」
「それも必要なことじゃないかと思うんですが……」
 田代住職は、しばらく考え込んでいたが、やがて言った。
「そうですね。親分さんのおっしゃるとおりだ」
「そのことはまた、おいおい考えるとして、今日は、少々お尋ねしたいことがあってやって来ました」
「何でしょう?」
「宗教法人ブローカーというのをご存じですか?」
「知ってますよ。休眠宗教法人を売り買いするんでしょう?」
「こちらに、そういう話はありませんでしたか?」
「え? ブローカーから声がかかったかってことですか?」
「はい」
「ないない。そういう話は噂でしか聞いたことがありませんね」
「何でも、けっこういい値段で売れるらしいですね」
「そんなうまい話があったら、乗ってもいいなあ……」
 田代住職は天井を見上げてそう言った。