義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 車を降りて、午後一時ちょうどに駒吉神社にやってきた。境内に大木の姿はなく、日村は社務所を訪ねた。
 大木はお札などを売る窓口にいた。
 阿岐本と日村は、社務所の中に招かれた。以前話をした場所だ。前回と同じ応接セットのソファに腰を下ろすと、阿岐本が言った。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
「いえ……」
 大木は以前ほど親しげではない。警戒しているのだろう。
 大木から見れば、阿岐本や日村の行動は怪しげに見えるかもしれない。何度も会いにくる目的がわからないはずだ。
 阿岐本は言った。
「単刀直入にうかがいます。この神社を売り買いするような話はありませんか?」
 大木はきょとんとした顔で、しばし阿岐本の顔を見つめた。
「売り買い……? どういうことですか?」
「そのままの意味です」
「あ……」
 大木は言った。「私が原磯さんといっしょにいたから、そんなことをお考えなのですね。原磯さんは不動産業者ですから……」