阿岐本が言った。
「けっこういい金になるらしいですよ」
「そりゃあ、金はほしいです。見てのとおりの木造の建物ですから、月日が経てば傷んできます。その補修代もばかにならないんです。でもね、そんなものは何とでもなります。もっと大切なものがあると、私は思っています」
「もっと大切なもの……」
「神社は地域住民の心の拠(よ)り所です。健康を損ねたら病院が必要ですよね。同じように人々の心のために神社はあるのだと思います」
「今はもう、そういう世の中じゃないと思いますが……」
「現代人は信仰などとは無縁に見えますが、未だに厄年のお祓いに来る方が大勢いらっしゃいます。新年には初詣の方が参道に列を作られます。新築の際には必ず地鎮祭を頼まれます。祭になれば、神輿を担いでくださる方々がおいでだ。私はそれなりに地域のために役に立っているのだと思っています」
 阿岐本がうなずいた。
「本当のお気持ちを知りたくて、少々意地の悪いことを申しました。勘弁してください」
「ですから、もしこの神社の法人格を買いたいという人がいても、決して売ろうとは思いません」
「じゃあ、うかがいますが……」
「はい」
「原磯さんと頻繁に会われているのは、どうしてですか?」