「それというのは?」
「昨日『梢』にうかがったのは、原磯さんが何をお考えなのか知りたかったからなんです」
「ああ、それは日村さんから聞きました。何を考えてるかって……。別に何にも考えていないんじゃないですか?」
「何か思うところがあって、あなたに近づいたんじゃないでしょうか」
「いやいや、それはないでしょう。ただいっしょに飲んでいるだけです」
「『梢』でいっしょに飲むようになったのは、ここ一、二年のことらしいですね?」
「そうですね。そんなもんだと思います」
「原磯さんから、宗教法人を買う話などは出ませんでしたか?」
「原磯さんから? いや、そんな話をしたことはありませんね」
 大木は嘘をついてはいないようだ。日村はそう思った。ヤクザは嘘に敏感だ。その点、警察官と変わらない。
「今日は、お時間を取っていただき、ありがとうございました」
 阿岐本が言った。「私ら、これで失礼します」
「あ、すいません。茶も出しませんで……」
 大木の態度がかなり和らいだ。話し合いの効果だろう。
 阿岐本は社務所を出ると、見送ってくれる大木に対して丁寧なお辞儀をすると、鳥居に向かった。