「そういう話があるんですか?」
 大木はきっぱりとかぶりを振った。
「この土地も建物も売るつもりはありません」
「うかがいたいのは、土地や建物のことではなく……」
「土地や建物ではない?」
「はい。宗教法人を売り買いする連中がいると聞きました。そういう話をお聞きになったことは?」
「もちろん話は聞いたことはありますよ。宗教法人ブローカーがいるって話はね。でも、そんな連中がうちに声をかけてきたことはありません」
「そうですか……」
「もし、そんな話があれば乗りたいくらいですがね」
「神社を売るおつもりですか?」
「もし、話があれば、ですよ。売るかどうかわかりませんが、心は動きますよ。だって、氏子は減るし、寄進も減る。後継者も決まってません。経済的にも苦しいですから……」
「お気持ちはわかりますが……」
 阿岐本が言った。
 日村も大木の言うことは理解できる。誰だって金がほしい。
「でもね」
 大木が言った。「売り買いされるのは、たいていは休眠法人ですよ。うちは休眠じゃない。ちゃんと神社としての役割を果たしています。ですから、売るつもりはありません」
 なぜか日村はほっとした。
 健一らと寺の鐘の話をしたときにも、そういうものがなくなっていく世の中はいやだという健一の言葉にほっとしていた。