大木は再び、きょとんとした顔になる。
「原磯さん? ああ……。飲みに誘ってくれるんで……。別に断る理由はないですし……」
「特に理由はないと?」
 大木は、上目遣いにちらりと阿岐本を見てから言った。
「いや、実は『梢』で飲もうと言われたら、断れないんですよ」
「ほう……。なぜです?」
「その……。実は私、アヤという子が気に入ってまして……」
 年甲斐もなく赤くなっている。いや、この年齢だからと言うべきか。
「なるほど。アヤさんに会いたいが、一人ではなかなか行きづらい。原磯さんがいっしょだと飲みに行きやすいということですね?」
「はい……」
「いや、うらやましいですな」
「え? うらやましい……?」
「はい。お気に入りの異性がいると、生活に張りが出ます」
「親分さんなら、銀座とかに馴染みのホステスさんとかがいらっしゃるんじゃないですか?」
「まあ、ヤクザ者が見栄で銀座に通っていた時代もありますが、今ではどこも暴力団お断りですからねえ。それに第一、銀座で飲むほど金はありません」
「そうなんですね……」
「いっしょに飲まれるときは、原磯さんが払われるのですか?」
「いえ、割り勘です」
「原磯さんに何か頼まれていることはありませんか?」
「ありませんね。それどころか、うちの氏子総代をやってくれると言ってるんです。その話はご存じでしたね」
「ええ。存じております」
「しかし、西量寺の檀家総代までやりたがっているとは思いませんでしたね」
「それなんですよ」
 阿岐本の言葉に、大木は眉をひそめる。