「宗教法人を売り渡してもいいということですね?」
「今のままだと、未来はないですからね。檀家はどんどん減っていきますし、後継ぎもまだ決まっていません。生活は苦しくなるばかりで、おまけに、鐘の音がうるさいなんて言われる……」
「なるほど、宗教法人格を売って心機一転というわけですか」
「それもいいかなと思います」
「では、話があれば売り渡すんですね?」
「いやあ、それはないですねえ。いくら金に困っているからといって、寺を売ったら坊主としてお終(しま)いですよ」
「でも、実際に売っている方はおられるようですね」
「そのまま宗教活動を辞めてしまうんでしょうね。でも、私は坊主を辞める気はありません」
「それを聞いて安心しましたが、今後、ない話とは言い切れません」
「いやあ、ないと思いますよ」
「昨夜、原磯さんにお目にかかりました」
「ああ、『梢』に会いに行くかもとおっしゃっていましたね。それで……?」
「原磯さんは大木神主といっしょでした」
「そうですか。原磯と会って、どんな話をなさったのです?」
「駒吉神社の氏子総代のこととか……」
「あいつ、本当に物好きですよね」
「原磯さんとは、よく話をなさるんですか?」
「そう頻繁に会うわけじゃないですね。たまに飲み屋でばったりとかはありますが」
「原磯さんから、宗教法人ブローカーのことをお聞きになったことはありませんか?」
 田代住職は怪訝(けげん)そうな顔になった。
「いいや。何も聞いてなかったと思うが……」
「もしかしたら原磯さんは、駒吉神社やこの西量寺を売却する算段をしているのかもしれません」
 

 

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