義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 田代住職が言う。
「あいつは不動産屋ですよ。土地家屋は売り買いできても、宗教法人は無理でしょう」
「原磯さんが売り買いをするのではなく、ブローカーを知っているのかもしれません」
 ふと田代住職は思案顔になった。
「たしかにあいつは、ちょっと怪しいところがあるな……」
「怪しいところ……」
「俺はね、そもそも住民が鐘の音のことを言い出したその背後には、原磯がいるんじゃないかと睨(にら)んでいたんです」
「原磯さんが、住民を焚きつけたと……」
「……というか、不満の声をまとめたんじゃないでしょうか。彼は不動産屋なので、住民のさまざまな声を聞く立場にあったのでしょう」
「そんなことをして、何の得があるんですかね……」