テーマが骨太ながら毎回のように笑わせてくれる

テーマが骨太ながら、観る側を硬くさせず、それどころか毎回のように笑わせてくれるのは吉田氏の才能だ。吉田氏は36歳だが、2年前に『恋せぬふたり』(NHK)で脚本界の栄誉である向田邦子賞を史上最年少で受賞した。ここ10年の朝ドラの脚本家の中でも最も若い。

シリアスもコメディも自然に演じられる伊藤の持ち味も十分に生かされている。第32回。裁判官試験にパスした花岡と寅子は2人きりで会うことになった。

気分が浮き立つ寅子はワンピースを新調し、それを着て勤務先の雲野法律事務所へ出勤する。ところが所長の雲野六郎(塚地武雅)らは気づいてくれない。

そこで寅子はおめかしを分かってもらおうと、雲野の目の前でスカート部分をつまみ上げた。ひけらかすように。その仕草だけで笑えた。大抵の女優には出来ない芸当だろう。

第33回、花岡に婚約者がいることが分かり、寅子は一転、落ち込む。この落差のある設定をたやすく演じ切ってしまうのが、伊藤の真骨頂である。

寅子は工場勤務のサラリーマン・佐田優三(仲野大賀)と結婚した。猪爪家の元書生で、目標の高等試験合格は果たせなかったが、心優しき男性である。昭和16年11月のことだった。その1ヵ月後、真珠湾攻撃で、日本は戦争に突入した。