ここまで本格的にエンパワメントを表現するドラマは初めて

裁判官・桂場等一郎(松山ケンイチ)が高等試験に臨む前の寅子に与えた助言も現代社会への皮肉ではないか。桂場は「同じ成績の男と女がいれば男を取る。それは至極まっとうなことだ」と言い放った。第29回、1937年のことだった。

昔の話だと笑い飛ばせれば良かったが、10大学の医学部入試において女性受験生が不利になるよう操作が行われていたことが2018年に明らかになった。寅子たちが味わった「地獄」は続いていた。

従来の集団劇とは異なり、エンパワメントを描いているところも魅力だろう。ここまで本格的にエンパワメントを表現するドラマは初めてだろう。

エンパワメントとは1950年代以降の米国での公民権運動から出てきた考え方で、集団内や組織内において自信を失っていたり、何らかの事情で本来の持ち味を出せていなかったりする個人がいるとき、周囲がその人らしさや能力を発揮できる環境づくりをすることを意味する。

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例を挙げたい。第19回、明律大の同級生・花岡悟(岩田剛典)は、家庭の内情のことで自分が侮辱した梅子に詫びた。花岡は目指していた東京帝大に落ち、そのショックから自分を見失っていた。

「こんな人間になるはずじゃなかったのに…」「仲間に舐められたくなくて、わざと女性をぞんざいに扱った」

一方の梅子は一言も怒らず、それどころか「本当の自分があるなら、大切にしてね」と励ました。その後の花岡は自分を取り戻し、高等試験にも一発で合格した。