79歳になって

「ミニシミテ」というのは山梨でよく言う言葉で、「身に沁みて」とも「身に染みて」とも書きます。物事が体の内までしっかり伝わる感覚といったらいいでしょうか。

言葉でしか知らない感覚は、原料を知らない食品のようで僕は怖い。自分の体を使い、実感として確かめた言葉を書きたいと思いながら、現在も連載は続いています。

今年3月で、僕は79歳になりました。最近は、目が覚めてから自分の意識や感覚が体に馴染むまでに、時間がかかるようになったと思います。筋肉をあるレベルまで鍛えても、もとに戻ってしまうのが年々速くなっている感覚もあって。それは体が僕に「もう休めよ」、と言ってくれているのかもしれない。

でもある時は、ものすごく激しく踊っても体がどんどん反応してくれて、「うわあ、まだやらせてもらえるのかい」と嬉しくなる。

体の細胞は、つねに生まれ変わっています。細胞が年を取るのではないし、全身が一気に衰えることもない。たとえば膝が痛くて座りっぱなしになれば衰えるばかりです。少し痛さをこらえて動かすことで、必ず応えてくれます。体が年を取ることは、私たちの精神とともにある。これは間違いないでしょう。

僕たちは、日々初めての時間を生きています。「今日は何歳と何日目だ」という新しい体験を毎日している。

『ミニシミテ』(田中泯・著/講談社・1870円)