(撮影:大河内 禎)
独自の舞踊スタイルで半世紀近く、世界中で活躍を続けるダンサーの田中泯さん。山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』出演後、俳優としても活躍の場を広げています。そんな田中さんが、仲間と友ともに移り住んだ山梨での日々の営みや、これまでの人生を綴った新聞での10年の連載から選ばれた、89編をまとめた『ミニシミテ』。共感できるセンテンスが見つかったら、声に出して読んでくれると嬉しいと、田中さんが語る理由は――。(構成:山田真理 撮影:大河内 禎)

体を使った言葉で

僕は40歳の時に仲間とともに山梨へ移住し、農業をしながら踊りを続けてきました。現在は国内外での公演や俳優としての仕事もあって、以前に比べて野良仕事との両立はなかなか難しくなりましたが、それでも時間が取れる限りは畑に出るようにしています。

実は今こうして話していても、頭の中では「玉ねぎの準備で次はあれをしなきゃ」「この気温だと雑草がすごいだろうな」と気にかけている。春はやることが多くて忙しいのです。

2007年頃に地元の新聞社から、そうした日々の営みや、これまでの人生について書くエッセイを頼まれました。そこから始まり、10年前から「えんぴつが歩く」という連載に発展していったのです。

書き始めるのは、いつも明け方。自分で削った2Bのえんぴつで、400字詰めの原稿用紙に最初の一行を書く。調子が良ければ、どんどん次の行へ。「いや違った」と消しゴムで消したり、その手の動きを面白がった飼い猫にじゃれつかれて中断したり。

思い出せない漢字を辞書で調べることも増えました。それで知らなかった意味などがわかると「なるほど!」と思ってわくわくする。書くほどに違った思考が生まれてはどんどん脱線していって、「このえんぴつめ!」と自分に呆れることも。

それは、僕が踊るときの体の進み方ととても似ています。踊るように書く。その10年の積み重ねから編集者に選んでもらった89編をまとめたのが、本書『ミニシミテ』です。