声に出して読んで欲しい

エッセイには虚弱で小さかった子ども時代から、10代で踊りを志し、さまざまな出会いを通じて自分を「脱皮」させてきた僕の人生のことも書いています。踊りの師匠である土方巽(ひじかた・たつみ)に始まり、大江健三郎、坂本龍一、樹木希林、ロジェ・カイヨワ、ヴィム・ヴェンダース――。

なかでも57歳の時に大きな脱皮を決心することになったのが、山田洋次監督との出会いでした。映画『たそがれ清兵衛』で初めて俳優に挑戦するまで、僕は声を使う仕事をしたことがなかった。そもそも学校の授業で音読するのも、嫌いで苦手だったんです。映画で初めて脚本(ホン)読みをした時もまったくうまくいかず、自分から役を降りようと思ったくらい。

思いがけず最初の映画で評価をいただき、俳優を続けるうちに声を出す仕事が少しずつ面白くなりました。言葉は単なる記号ではなく、発する人の声質や体調でも伝わり方が変わります。

昨今の政治家を見ていれば、同じ言葉を使っていても「この人の言葉は本物だ」「こいつのはウソだ」ってすぐわかるじゃないですか。(笑)

今では、大切に思う文章は必ず声に出して音読をしています。すると言葉が、自分の「身に沁みて」実感できるように思えるのです。

僕の本を手に取って、もし共感できるセンテンスが一つでも見つかったら、声に出して読んでくれると嬉しいですね。悲しみ、怒り、喜び。わきあがった感情を込めて音読することは、きっと面白い体験として新しい自分を発見することにもつながるのではと思います。