その後、より多くの人に作品を届けたいと、87歳のときに、娘2人とネット通販のハンドメイド・ショップ「Tammys(タミーズ)」を立ち上げた。以来、売上金の一部を寄付し続けている。
さまざまな作品の試作を重ねるなかで生まれたのが、ふわふわの羊毛を専用の針でつついて繊維をからめる「羊毛フェルト」の作品だ。山下さんの手法は、フェルト生地の上に犬や猫、リスなどの動物や草花のモチーフを配置し、色とりどりの羊毛を刺してふんわり立体的に仕上げたもの。
これが注目されるようになり、次第に愛犬や愛猫を亡くした人から、「そっくりに作ってほしい」といったオーダーが入るようになる。写真をもとに依頼者と相談しながら制作したペットの肖像作品、羊毛フェルトの「ペットポートレート」が評判を呼んだ。
「単にそっくりに作っているのではなく、飼い主の方とワンちゃん猫ちゃんとの《思い》を形にするお手伝いができれば、と取り組んでいるんです」
実際に見せてもらうと、愛らしい表情のワンちゃん猫ちゃんが、額縁からいまにも飛び出してきそう。山下さんの作品のいちばんの特徴は、物語を感じさせる生き物の表情の愛らしさだ。
「完成品をお送りすると、『愛犬にそっくり。箱を開けた瞬間に目が合って、思わず涙が出ました』『いつもあの子が目に入るように、家具の配置も変えました』などという、うれしいお手紙をたくさんいただいて。お礼にと、地元のおいしいお米や野菜を送ってくださる方もいるんですよ。だから作っている私のほうが感動してしまうの」