最近作った額入り作品やアクセサリーなど

絵画教室がなくなり、住み慣れた場所を離れて、意気消沈したりはしなかったのだろうか――。

「それが、どうも私は暇を感じる間もなく何か始めちゃう人なのね(笑)。引っ越して間もなく、経歴を聞いた近所の人に、『区のお祭りで花のコサージュ作りを教えてください』『小学校の放課後教室をお願いします』とお声がかかって。どんどん引き受けてしまいました」

2人の娘は、子どもの頃から絵画教室をサポートしてきたが、それぞれ母と同じ美大を卒業。サンフランシスコ在住の長女・YURIさんはジュエリーデザイナーになり、次女のひろみさんは商品開発とデザインの仕事に就いた。

山下さんが80歳の春には、念願の母娘3人展を都内の画廊で開催。そして、2011年の震災をきっかけに始めた試行錯誤が、「タミーズ」としての本格的な活動につながった。

山下さんが手がける「羊毛フェルト」の心あたたまる世界観に娘さんたちも魅了されて、3人の制作体制となる。たとえば「ペットポートレート」は額装した肖像作品を山下さんとひろみさんが、ぬいぐるみのような立体作品はYURIさんが担当。三者三様のセンスとクオリティの高さが自慢だ。

「娘たちには感謝です。彫刻家としての経験から、もっとこうしたらと伝えて切磋琢磨するという感じ。もう私を凌ぐ力量ですよ」

YURIさんの立体作品(左)と、ひろみさんの額入り作品(右)(写真提供◎タミーズ)

注文が来ればお客様に喜んでいただきたい、そして作品が誰かの助けになれば、という一心で手を動かす。88歳のときには自宅で4日間連続のチャリティバザーを開いて大盛況。3人は、人の役に立ちたいという、ぶれない思いで立ち上がった。

その思いは、11年から続けている、宮城県の東日本大震災こども育英基金や、動物保護団体への寄付に表れている。

「じつはベランダで転んで腰を痛めたので、いまは体調に合わせて自由にもの作りを楽しんでいます」

明日は何を作ろうか――とワクワクしながら眠りにつく。これからも、新しい創作にチャレンジする山下さんの作品が見られるはずだ。

後編につづく