何か別の力で歌わせてもらっている
ラストショーは、前日のゲネプロ(本番の間近に、本番と同じメンバー、演出、音響、照明、舞台で行うリハーサル)ではあまり声が出なかったんだ。当日の開演前のリハーサルも実はあまりよくなかった。
ところが不思議なもので、本番は声がしっかり出たんだよな。なんでなのかな。本番で、俺は自分が歌っている気はしなかったんだ。なにか別の力で歌わせてもらっている感覚だったな。
「俺、声は出てるか?」
1部と2部の間の休憩時間にマネージャーに聞いた。
「ばっちり出ています。現役そのものじゃないですか!」
やっぱりな。思った通りの答えだった。
「でも、2部はわかんないぞ」
マネージャーには言ったよ。自分ではないなにかの力で歌っていると感じていたからね。
※本稿は、『俺は100歳まで生きると決めた』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)
2022年末のNHK紅白歌合戦出演を最後にコンサート活動から引退した加山雄三は、ある決意をする。「俺は100歳まで生きる」と。新たな音楽活動に挑戦して本人が「攻めに転じた」という70代から愛船の火災と病に見舞われた80代、そして未来を見据えた余生まで。自身を育んだ茅ヶ崎の海や強い絆で結ばれた友たちに思いを馳せながら、永遠の若大将が語る幸福論!