健一に電話をかけた。
「はい、三橋。日村さん、どうしました?」
「健一、今どこにいる?」
「伊勢元町内です。原磯と反対住民の関係を調べています」
「すぐに戻れ」
「え……? でもまだ、途中ですが……」
「いいから、すぐに戻れ。できるだけ目立たないようにな」
「わかりました」
 日村は電話を切った。そして、奥の部屋に戻った。
 阿岐本と永神の話し合いが続いていた。
 永神が言った。
「とにかく、事情はどうあれ、西の直参が伊勢元町で何かやろうとしているわけだ。だからといって、へたに手出しはできねえ……」
「手出しはできねえだって? 冗談じゃねえ。今こそ俺たちの出番じゃねえか」
 それを聞いて、永神は目を丸くする。
 日村は話の流れを把握するために、しばらく黙って聞いていることにした。
 永神が言う。
「シノギの邪魔なんかしたらえらいことになるぜ。直参を怒らせたら、本家が黙っちゃいねえ」
「渡世の約束事は、素人さんたちには関係ねえ」
「けど、俺たちはその渡世で生きているんだ」
「神社の神主や寺の住職が、だまされて地域を追い出されるかもしれねえんだ」
「だからって……」
「おい、そもそもこの話を持って来たのはおめえだぞ」
「俺はただ、多嘉原会長の話を聞いてもらおうと……」
「多嘉原会長か……」
 阿岐本がつぶやくように言った。「もう一度お目にかからなきゃならねえかな……」
「え?」
 永神が目を丸くする。「何で多嘉原会長に……」
「いろいろ報告をしなけりゃならねえだろう。それにな……」
「それに?」
「もしかしたら、高森ってやつのこと、ご存じかもしれねえ」
「はあ……」
「俺が電話をしてみる」
 話は終わったということだ。永神は席を立った。日村も部屋を出ようとすると、阿岐本が言った。
「原磯の不動産屋がどこにあるか調べておけ」
 日村は「はい」と言って退出した。