健一と真吉が戻ってきていた。
永神が「じゃあな」と言って、事務所を出ていった。
健一が日村に言った。
「大急ぎで戻ってきましたが、いったい何事です?」
「町内で聞き込みをやっていたんだな?」
「ええ。まず、商店街を回っていました」
「妙なやつらに会わなかっただろうな」
「妙なやつら……?」
「つまり他団体の連中だ」
健一と真吉は顔を見合わせた。
「いいえ。会ってません」
日村は言った。
「原磯がつるんでいた宗教法人ブローカーの正体がわかった。高森浩太。西の直参らしい」
さすがの健一も顔色を変えた。
「直参……」
「ああ。花丈組の二代目組長でもある」
「そんな大物だったんですか……。俺はてっきりチンピラがやっていることかと……」
「つまり、手下を連れて行動している可能性が高いということだ」
「そうでしょうね。そんな大物が単独行動しているとは思えないです」
「おまえらが、町内をうろうろしていて、その連中と鉢合わせでもしたら、面倒なことになる。それでなくても、中目黒署の谷津って刑事が目を光らせているんだ」
「わかりました」
「オヤジが、原磯の不動産屋がどこにあるか調べておけと言っていた」
「あ、それならもう調べてあります。商店街の外れにありますね」
「そうか。稔……」
「はい」
「健一からその場所を聞いて、車で行けるように準備しておけ」
「わかりました」
「しかし、西の直参ですか……」
健一が言った。「だいじょうぶなんですか?」
日村は聞き返した。
「何がだ?」
「へたをすると、その高森って人と対立することになるんですよね……」
「だからどうした」
「敵(かな)いっこないでしょう……」
日村は奥歯を噛みしめた。
「それは、オヤジに言ってくれ」
そのとき、奥の部屋のドアが開き、阿岐本が言った。
「おい、誠司。出かけるぞ」