「ああ、阿岐本さん。まあ、上がってください」
「お時間をいただき、恐縮です」
「堅い挨拶はなしだよ。もう訪ねてくれる人もいなくなってねえ……」
 案内されたのは、ごく普通のリビングルームだった。それほど高級に見えない応接セットがある。
 テーブルを挟んで、多嘉原会長と阿岐本が向かい合う。日村は阿岐本の隣に座った。
 多嘉原会長と同年代の女性が三人分の茶を盆に載せてやってきた。
「かかあです」
 阿岐本と日村は同時に立ち上がった。阿岐本が言う。
「あ、これは姐(あね)さんですか。阿岐本と申します」
「姐さんはもうなしですよ。今じゃ、表に代紋も出せないんですから……」
「うちも同じです」
 夫人は「ごゆっくり」と言って別の部屋に消えた。
 多嘉原会長が茶をすする。次に阿岐本が茶を飲んだので、日村も茶に手を伸ばした。
「先日はとんだ愚痴をお聞かせしちまいましたねえ。済まんこって……」
 多嘉原会長の言葉に、阿岐本がこたえる。
「とんでもねえ。あれからいろいろと勉強させてもらいました」
「ほう……。勉強……」
 阿岐本は、宗教法人ブローカーが動いているらしいことを話した。
 話を聞きおえると、多嘉原会長が言った。
「駒吉神社もなかなかたいへんのようですね。先代の神主の頃は、世の中がまだおおらかだったんですねえ。祭りになれば、ご近所の人たちが神輿(みこし)をかついだりしてました。氏子の方もたくさんいらした……」
「近くにある寺もたいへんでして……」
 阿岐本は、鐘の音が問題になっていることを話す。