そろそろ夕方の渋滞が始まる時間帯で、東から西へ都心を横断するのは時間がかかると思ったが、意外なほど短時間で目的地にやってきた。
 渋滞がまだ本格化していないせいもあるが、稔のコース取りのうまさのおかげだ。誰にでも取り得がある。
『ハライソ不動産』は大通りから商店街に入ってすぐの雑居ビルの一階にあった。
「へえ、いい立地じゃねえか」
 車を降りた阿岐本が言う。
 日村たちが店に入ると、女性従業員がすかさず「いらっしゃいませ」と言った。原磯に会いたいと言うと、その女性従業員はすぐに取り次いでくれた。
 店の奥から原磯がやってきて、日村と阿岐本を見るとたちまち不安そうな表情になった。
「何でしょう」
 阿岐本がこたえた。
「土曜日の『梢』での話の続きです」
「話の続き……?」
「人目のないところでお話がしたいのですが……」
 しばし戸惑っている様子だ。どうしていいかわからないのだろう。うろたえた挙げ句に警察でも呼ばれたら面倒だな。日村がそう思ったとき、原磯が言った。
「こちらへどうぞ」
 案内されたのは、店の奥にある小部屋だった。応接セットがあるところを見ると、店先で応対せずに、ここに案内する客もいるのだろう。
 賃貸などではなくマンションや土地購入といった大口の客だ。
 ソファに腰を下ろすとすぐに、阿岐本は言った。
「ヤクザ者と付き合っちゃ、ろくなことになりませんよ」
「は……?」
 原磯の顔色が悪い。阿岐本の言葉が続く。