車に戻ると阿岐本は、稔に言った。
「原磯の店に行ってくれ」
 稔が「はい」とこたえて車を出す。
 日村は言った。
「伊勢元町に行ってだいじょうぶでしょうか……」
「何がだ?」
「健一たちを引き上げさせたでしょう。高森の手下がうろついているかもしれません。谷津のことも気になります」
「だからさ、ぱっと行ってぱっと引きあげるんだ」
「相手が原磯の店の周りで張っているかもしれません」
「訪ねるなら今なんだよ」
「今……?」
「高森はまだ、俺たちのことを知らねえだろう」
「そうでしょうか。原磯からすでに聞いているかもしれません」
「それなら、もう接触してきているはずだ」
「はあ……」
「あるいは、知っていても、弱小の一本独鈷(いっぽんどっこ)なんて気にもしてねえんだろう」
「そうとは思えません。相手がどんなやつだろうと邪魔しようとするやつはつぶす。それがでかい組織のやり方です」
「おめえは本当に心配性だな」
「だから生き残れたと思っています」
「……にしても限度があるよ。心配するな」
 阿岐本の言葉は自信に満ちている。この自信はいったいどこから来るのだろうと、日村は思った。
 おそらく、何の根拠もないのだ。