これまでにも、永神のせいでいろいろな職業と関わった。だが、警察沙汰になったことはほとんどない。
 組長が警察に捕まったとなれば、万事休すだ。阿岐本が服役することになったら、組を畳むことも考えなくてはならない。
 組がなくなったら、健一、稔、真吉、テツは、いったいどうやって生きていけばいいのだろう。日村自身も生きる術(すべ)を失うのだ。
 真面目に仕事を探せばいいと人は言う。だが、元ヤクザを雇ってくれる人がどれだけいるだろう。
 だいたい、まともな職に就けるようなやつはヤクザにはならない。自業自得と言われるかもしれないが、世間の風は冷たいのだ。
 自分はどうやら恐れていた悪循環に陥っているようだと、日村は思った。想像が悪いほうへ悪いほうへと向かっていく。
 それに気づいても、自分ではもはやどうすることもできない。
 いったい、どれくらい時間が経ったのだろう。そして、この先どれくらいこの状態のまま放っておかれるのだろう。
 絶望がひたひたと忍び寄ってくる。
 突然、ドアが開いた。
 日村は、はっと戸口を見た。そこに谷津が立っていた。日村は言った。
「ようやく俺の取り調べですか。ずいぶん待ちましたよ」
 谷津が黙って場所を空けると、そこに阿岐本が立っていた。
「誠司」
 阿岐本が言った。「帰(けえ)るぜ」
「え……?」
 日村は訳がわからず、阿岐本と谷津の顔を交互に見た。
 谷津が言った。
「聞こえなかったのか? さっさと行け」
 日村は立ち上がった。