電話をかけると、稔が車を警察署の前まで持ってきた。
 阿岐本と日村が乗り込むと、稔が言った。
「こんなところに停めて、駐禁取られませんかね?」
 日村はこたえた。
「そう思ったら、すぐに出せ」
「はい」
 車が走りだすと、日村はようやく落ち着きを取り戻した。大きく一息つくと、日村は阿岐本に尋ねた。
「いったい、どういうことです?」
「何の話だ?」
「谷津はどうして自分らを釈放したんです?」
「釈放も何もねえよ。任意なんだからな」
「マル暴にヤクザが任意だ何だって言ったって通用しないでしょう」
「そんなことはねえよ。法律は法律だ」
「谷津とどんな話をなさったんです?」
「ありのままを話したよ。そうしたら、谷津は興味を示したってわけだ」
「興味を示した……?」
「綾瀬あたりの、組員五人の一本独鈷と、大組織の直参と、谷津にとってどっちがおいしいと思う?」
「あ……」
 日村は言った。「取り引きしたってことですか?」
「取り引きじゃねえ。ありのままを話しただけだって言っただろう」
「つまり、高森が地域の神社や寺を狙っていると……」
 高森が宗教法人ブローカーをやっており、駒吉神社や西量寺の法人格を買い取ろうとしている。阿岐本はそれをそのまま谷津に話したということだろう。
 西の直参が管内で暗躍していると知り、谷津は俄然興味を示したわけだ。