義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


     18

 誰かが通報したのだろうか。いや、まだそんなタイミングではない。おそらく、谷津は原磯の店を張っていたのだろう。
 言わんこっちゃないと日村は思ったが、阿岐本は涼しい顔をしている。
「おや、谷津さん」
 阿岐本が言った。「どうされました?」
「どうしたもこうしたもねえよ。おまえらここで何してる?」
「原磯さんとお話をしています」
「脅しをかけているんじゃないだろうな?」
「そいつは誤解ですよ」
 すると谷津は、原磯に尋ねた。
「どうなんだ?」
 原磯の顔色はすでに回復していた。谷津を見て急に強気になった。
「訳のわからないことを言われてたんですよ。イチャモンですね」
「そいつは聞き捨てならねえな」
 谷津は阿岐本に言った。「今日こそ、署に来てもらうぞ」
「わかりました」
 阿岐本が言った。「お供いたします」
 こいつはヤバいな。日村は思った。
 一度警察に連行されたら、しばらくは解放してもらえないだろう。任意だろうが何だろうが、反社には関係ない。
 警察はあの手この手で日村たちの勾留を続けるだろう。そして、厳しい取り調べをする。道場に連れ込んで拷問することもある。
 さすがに取調室で乱暴を働くとまずいので、稽古と称して道場に連れていき、柔道の技で投げたり絞め落としたりする。
 そんな話を一般人にすると、「まさか」と言うが、反社相手だと警察はそういうことをやるのだ。
 谷津のペアらしい若い私服と、見覚えのある地域課の制服警察官二人がやってきて、阿岐本と日村を引き立てた。
 手錠はかけない。逮捕ではないのだ。
 部屋から連れ出される直前、阿岐本が原磯に言った。
「いいですか? できれば彼らとは縁をお切りなさい」