こちらの不安に寄り添う

「一件目では、歯磨きを頑張れと言われたんです。薬を出してもらえなくて」と言うと、先生は「それは酷いね。何も出してもらえなかった?クリーニングもしてもらわなかったの?」と目を丸くした。

「あと、虫歯がありますよ。ここを見てください」と言われ、鏡を覗き込むと、腫れている歯茎の根元の歯に、大きな穴が空いているではないか。「ここから汚れが入って、化膿していたんです」。え、A歯科では「虫歯じゃない」って言われたのに!

『死ねない理由』表紙(著:ヒオカ/中央公論新社)
『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

「あの、左側も痛くて。A歯科では、左側の歯茎の痛みは、虫歯と言われたんですが」と言うと、「左側は虫歯じゃないですね」と言われる。え、言ってること、真逆やん!椅子から崩れ落ちそうになる。どうやら、左側だけで噛んだことで、噛み合わせが悪くなったことが原因のようだ。

先生の明確な診断と、明朗かつ丁寧な説明に、張りつめていた気持ちがゆるむ。ありがたくておがみたくなる。「今回はセカンドオピニオンということで、一回だけにとどめておきますか?それとも、継続的に通いますか?」と意思確認もしてくれた。

虚弱体質で、日頃からあらゆる科に行っている身として思うのは、医者に大事なのはもちろん腕(原因を見極める力、適切な処置をすること)だと思うが、同じくらい大事なのは説明をしっかりしてくれて、こちらの不安に寄り添ってくれること、だ。身体に不調があるときは心も弱っている。そこでしっかり丁寧に説明するだけで、心は救われる。A歯科の致命的だったところはもちろん誤診をしたこと。だが、それと同じくらい、説明をちゃんとしてくれず、聞いてもキレ気味にあしらわれたことがメンタルに来た。