(写真提供◎photoAC)

試行錯誤を繰り返して自分の軸を確立

当時の私は20代後半。自分のルックスが定まらず、試行錯誤を繰り返していた時です。この頃の写真を見ると、かなり一貫性のない格好をしています。

服に着られてしまっていたり、ちっとも似合っていなかったり、あまりサマになっていません。豪華な陶器に盛られて肩身が狭そうな惣菜や、反対に粗末なお皿にのせられてあまりパッとしないご馳走のように、なんだかチグハグなのです。

自分らしいスタイルがなかなか見つからず、焦りを感じていた私ですが、5センチのヒールのおかげで大事なことを見落としていたことに気が付きました。それは、私がこの歳で「サマになっていない」のは、ある意味、当たり前だということです。

おばあさまが「サマになる」ヒールを見つけたのは60歳を過ぎてから。つまり、60になるまで、いえ90になるまで、いろいろ試してみたっていいということです。ゆるりと一年一年、試行錯誤を繰り返しながら、自分という軸を確立していけばよいのです。

そう思うと、歳をとるのが嫌なことではなく、私だけの密かな楽しみのような気さえしてくるのでした。

「五十にして天命を知る」と言ったのは孔子ですが、5センチのヒールのおばあさまは、「六十にして我を知る」と言い放った強者なのです。