「何十年とキャリアを積んできた和枝ちゃんでさえそうなんだから、僕はまだまだだなと思ってため息をついたら…」

共演はできなかったけれど、憧れている俳優さんも大勢います。森繁久彌さんや三木のり平さん、渥美清さん。なかでも小林桂樹さんは僕の目標です。シリアスからコメディまで幅広く演じていらっしゃるけど、口の端でニヤリと笑いながら、ちょっとシニカルに自分を見ているような演技に、ものすごくしびれます。

ただ、それぞれ個性のある方たちですから、自分に同じことができるとは思っていません。僕は僕なりの演技を探求するしかない。

役者としての悩みは深いですね。デビューして18年経ちましたが、いまだに自分が出演した作品を観ることには慣れなくて。アラばかりが目につき、作品を客観的に観ることができないんです。自らの演技に落ち込んで反省するんですが、反省が終わらないうちにまた自分が出てきて、また落ち込んで。(笑)

高校時代に出演したデビュー作の映画『美しい夏キリシマ』を、4年ほど前に観る機会がありましたが、まったくの新人で、しかもまだ子ども。もう、恥ずかしくて、息が苦しくなるくらいでした。

 

「待つこと」と「がっかりに慣れること」

演技に関しては、「そんなに自分に期待することもないのに」と思いつつ、「おまえ、何やってるんだ」と、毎回、自己否定しっぱなしです。だから、「次こそは」と思って十分に準備して現場に入るし、クランクアップすると「今回、あそこだけは少しできた気がする」という期待を持つんですけどね。でも試写を観ると、やっぱりがっかりする。その繰り返しです。

以前、母ちゃんにそういう話をしたら、こう言われました。「なに言ってるの。『待つこと』と『がっかりに慣れること』が役者の仕事だよ。私だって、ずっとがっかりし続けているんだから」と。

何十年とキャリアを積んできた和枝ちゃんでさえそうなんだから、僕はまだまだだなと思ってため息をついたら、和枝ちゃんは「でも、腐るなよ」と声をかけてくれた。そんなふうに、若い頃から先輩の言葉を身近に聞ける環境だったのは、ありがたいことだと思います。