鉄柵、木柵、埒、生籬の記号

(5)鉄柵と(6)木柵は説明するまでもないだろう。いずれも塀ではないので見通しが利く。見通しの有無については、後述するように軍事的な理由での重要性があった。

(7)の埒そのものは耳にすることが滅多になくなったが、「不埒な奴」とか「埒が明かない」として使われる。

<『地図記号のひみつ』より>

要するに馬場の柵であるが、競(くら)べ馬を見に来た観客が競走の開始、つまり埒が明く(外される)のを待ちわびて発した言葉ともいう。

『地形図之読方』によれば「鉄鎖ヨリ成ルモノ及玉垣等モ亦之ヲ以テ示ス」としている。

玉垣は神社を取り囲む隙間のある石の垣根(瑞垣<みずがき>)で、石柱に寄進者の名前などがズラリと刻まれているあれだ。

ついでながら、駅の改札のことを鉄道業界ではラッチと呼ぶ。英語のlatch(閂<かんぬき>、留め金などの意)に由来するという正統派説の他に、「『埒』が転じた」とする説もあるようだ。

下北沢駅(東京都世田谷区)では最近まで小田急線と京王井の頭線の間に改札がなく、「以前はノーラッチで乗り換えられたのに」、小田急の地下化で改札が二つ新設された今は「ラチが明かない」と嘆く人も多い。

(8)の生籬は現在では生垣と書くことが多い。植物を植えたものを垣根にしているので、気候風土や流行も影響するから多種多様だ。

多摩地区にある拙宅付近では、古くからの農家に「カシクネ」と呼ばれるシラカシの垣根が目立つ。

近所には雑木林もあり、シラカシのドングリはいくらでも拾うことができ、拙宅でも息子がまだ幼児だった頃にこれをプランターにいくつも埋めておいたら何本かが育ち、門前に移植した2本が今も健在だ。

大正時代の色刷りの1万分の1地形図ではこの記号だけ他の塀関連記号と違って緑色となっており、これで彩られたお屋敷町などは独特な色合いで当時の風景を想像させてくれる。