ガラスの器に透けるように張られた、たっぷりのかけ出汁。その中に揺蕩う麺も涼やかなご覧の一杯が、「成冨」の夏の風物詩「冷かけそば」だ。
具は一切なし。薬味さえもつけぬその潔さに、ご主人成冨雅明さんのこだわりが伝わってくる。
元来、蕎麦屋の出汁といえば、鰹の厚削りや鯖節、宗田節などを用い、力強い出汁を取るのが常套だが、成冨さんは雑味なくクリアな味を求め、使うのは羅臼昆布と薄削りの本枯節、それも、血合い抜きという徹底ぶりだ。割烹の吸い地を思わせる品のよさながら、そこに干し椎茸を加えて旨みの底味を引きあげている。
一口啜れば、輪郭のはっきりした凜とした味わいの中、ふくよかな出汁の旨みが舌に広がる。その出汁に、十割で打つ蕎麦がキリリと絡む。
蕎麦は、成冨さんが吟味を重ねて選んだ茨城は山方の「常陸秋そば」。風味の高さと穀物感豊かな味わいが特微だ。
出汁と蕎麦、それだけで十分美味だが、これからの季節、蓴菜(じゅんさい)を浮かべた冷かけそばも夏ならではの佳品。合いの手には、旬の素材が楽しみな揚げたての天ぷらもおすすめだ。
●東京都中央区銀座8-18-6
●電話:03・5565・0055
●11:30~14:00(L.O.13:55)、18:00~20:30(L.O.19:45) 土・日・祝日休
●昼/せいろ1320円~、夜/一品料理990円~(夜は要予約、1人770円の席予約料がかかる)
●アクセス/東京メトロ、都営地下鉄東銀座駅より徒歩5分、都営地下鉄築地市場駅より徒歩3分