古代ローマと日本
たとえば、古今東西、入浴文化が日常の習慣として浸透していたのは、世界でも古代ローマと日本のみ。その比較文化的発想から生まれたのが『テルマエ~』という漫画なのである。
入浴文化発展の基軸となった温泉は、火山が多い地域に湧くものであり、火山があるところには地震も発生するし、津波も起こる。古代ローマは日本と同様、常に自然災害と向き合ってきた国家だったわけだが、そこに焦点を向けたのが『プリニウス』という作品なのである。
天災だけではなく、森羅万象がさまざまな神や怪物の存在と紐づけられるところも、八百万の神が宿る日本とよく似ている。合理主義が根づく欧州の人よりも、多様な宗教を受け入れ、目に見えない自然の力に畏怖の念を抱く日本人の気質は、私の中にも確実に根づいている。
プリニウスという博物学者の旺盛な知識欲は、まさにそうした特定の信仰に囚われない社会でこそ生まれたものであり、日本人の想像力であればその世界観は難なく感受できるだろう。
『プリニウス』はそんな想像力によってできあがった作品なのだった。
そういえば、かつてイタリアの新聞に『テルマエ・ロマエ』についての記事が掲載されたことがあった。その時もやはりなぜ日本人が古代ローマを描くのか、なぜ日本でローマが流行るのかについて言及されていたが、タイトルは「古代ローマ文明、漫画によって日本を席捲」というものだった。
『歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)
パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!