二つの説

滑走路下に遺骨が残存しているという見方には二つの説がある。

一つは「生き埋め説」だ。

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』(著:酒井聡平/講談社)

島中央部は、死傷兵の多さから米軍が「肉ひき器(ミートグラインダー)」と呼んだ要塞群があった激戦地だった。

そのため米軍が滑走路を急ごしらえで造成した際、中に日本兵が入ったまま重機でふさがれた壕が少なくないのではないか、というのがこの説の見方だ。

もう一つは「集団埋葬説」だ。

島中央部は起伏がある地形だった。米軍はくぼんだ部分に土を盛って整地する際、多くの遺体を埋めたのではないか、という推測だ。

この二つの説の検証に向けた政府の動きは2012年に本格化した。

防衛省が高性能地中探査レーダーを開発し、地下4メートルの範囲で大腿骨に似た円柱状の固形物がないか探索を始めた。

壕の可能性のある空洞が地下10メートルまでの範囲で存在しないかも、このレーダーで探った。

結果、1798ヵ所で大腿骨に似た固形物、3ヵ所で空洞が見つかった。

固形物はその後の掘削調査で、いずれも石や金属片など人骨以外だったと判明した。

一方、3ヵ所の空洞のうち2ヵ所は探索済みの壕だった。

2ヵ所とも滑走路の端付近にあり、コンクリートで覆われなかった滑走路外の壕口から内部に入って調べたのだった。

未探索だった残る1ヵ所の壕こそが、首相官邸の会議で報告された、あの「地下壕マルイチ」だった。