地獄の戦場

この壕の入り口は高さ約10メートルの崖の最下部に掘られていた。地下に向かうのではなく、洞窟のように横方向に掘られていた。

全長14メートル。壕の天井の高さは4メートルほどだった。

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』(著:酒井聡平/講談社)

不必要に感じるほど高い。手で掘った跡があるのは壁面だけだ。

そのことを考えると、もともと4メートルの高さがある天然の洞窟を利用してつくられた壕だと思い至った。

入り口付近の岸壁は被弾した穴だらけだった。

壕の入り口から海を見渡すと、硫黄列島の一つである「北硫黄島」が見えた。地図によると、約80キロ離れているとのことだが、肉眼で見ると格段に近く感じる。

硫黄島は、弾も水も食糧もない地獄の戦場だった。

ここからイカダで脱出を試みる兵士が相次いだ、との生還者の証言を思い出した。

これだけ隣の島が近くにあると感じられると、脱出の試みも無理はないと思った。

ちなみに、北硫黄島への脱出が成功したという記録は、日本軍側にも米軍側にもない。