日村はマスターに言った。
「教育上よろしくありませんね」
 それにこたえたのは香苗だった。
「じいちゃんがこうして私をここに連れてきてくれることこそが教育だと思うよ。本当のことって、この目で見なけりゃわからないでしょう?」
「法律がある」
 日村は言った。「条例もある。俺たちみたいのと付き合ってはいけないと、国が言っているんだ」
「だったら法律が間違ってる」
 日村は何と言っていいのかわからなくなった。永神が言う愚痴とは訳が違う。
 香苗が続けて言う。
「そりゃあ、日村さんが言うとおり、たいていのヤクザは悪い人だと思う。人を怖がらせるのってよくないことだよね。切った張ったはダメだと思う。でもね、皆が悪い人なわけじゃない。なのに、法律で全部ダメっていうのはおかしい」
「例外を認めると、取り締まるのが面倒なんだよ」
「そんなの警察の都合じゃない」
「香苗」
 マスターが言った。「日村さんたちだって同じことをおっしゃりたいんだ。でも、じっと我慢しておいでなんだよ」
「我慢することなんてないのに」
 日村は言った。
「我慢することが、自分らの仕事みたいなものですから……」