義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
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斉木と原磯は西量寺を去っていった。原磯は一刻も早く阿岐本たちから解放されたい様子だった。
二人がいなくなると、阿岐本が田代住職に言った。
「突然のことで、失礼しました」
「いや、造作もないことです」
「しかし、過去帳というのは貴重なものですね」
「ええ。このあたりは空襲を免れたので、古い記録が残っていますね」
「寺がなくなったら、そういう記録も失われるんですね」
「事実、日本中でそういうことになっているようですな。後継ぎがいなくて廃寺になったら、過去帳を管理・保管する人もいなくなります」
阿岐本がうなずく。
「おっしゃるとおりですね。このお寺がいつまでも栄えていかれることを祈っております」
「そういうお言葉は、お愛想でもありがたいね」
「私は本気ですよ」
「ところで、どうして原磯といっしょだったんです?」
「あの人とは話をしなければならないと思いましてね」
「例の宗教法人ブローカーの話ですね」
「付き合うやつを間違えると、とんでもないことになるとご忠告申し上げているんですがね……」
「人の言うことを聞くようなやつじゃないですよ」
「その後、追放運動の人たちは……?」
「ウイークデイは静かですよ」
「何かあったら知らせてください」
「ああ。そうしますよ」
阿岐本と日村は事務所に戻ることにした。