午後二時過ぎに、また永神がやってきた。なんだか、渋い顔をしている。
「アニキ、いるかい」
 奥の部屋に案内すると、いつものように「誠司もいっしょに話を聞け」と阿岐本に言われた。
 阿岐本と永神が向かい合って座り、日村は阿岐本の隣に腰を下ろした。
「嫌な噂を聞いてな……」
 永神がさっそく話し出す。
「何だ? 噂って」
「高森には中国マネーが流れているという噂だ」
「あり得ない話じゃねえな……」
 阿岐本は思案顔になった。「中国人資産家が、日本の宗教法人を買いたがっているという話は聞いたことがある」
「そもそも高森が宗教法人ブローカーをやろうと考えたのは、そうした中国人の需要があったからかもしれない」
「あの……」
 日村は言った。「二代目花丈組は、ほとんど実態がないと、テツが言っていました」
 永神がうなずいた。
「先代の頃はそれなりに羽振りはよかったんだがな。暴対法や排除条例のあおりをもろに食らっちまったんだ。まあ、二代目の器量にも問題があったんだろうがな……」
「事務所の件で、逮捕されたっていうことですが……」
「そうらしいな。それ以来、花丈組は事務所を持っていない。実態がないと言ったがな、それは地下に潜ったということだ」
「犯罪組織化したということですね」
「ああ。暴対法のせいでシノギもできねえ、事務所も持てねえじゃ生きていけねえ。だから、地下に潜って稼ぐしかねえんだ。暴対法のせいでますます世の中悪くなってるってのに、警察のお偉方や政治家はそれに気づいていねえんだ」
 永神も鬱憤が溜まっているのだろう。
 阿岐本は永神の愚痴をあっさりと無視した。