義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

「つまり、あんたはその西の直参に楯突こうとしているわけか?」
「はい」
 実にあっさりとしたそのこたえに、仙川係長と甘糟はたじろいだ。
 仙川係長が言った。
「ただじゃ済まんぞ」
「私らだけじゃどうしようもねえかもしれません。でも、いくら西の直参といったって、全国二十九万の警察官にはかなわねえでしょう」
 甘糟が言った。
「それって、警察官だけじゃなくて一般職員を含めた数ですけどね……」
 甘糟を無視して仙川係長が言った。
「ははあ……。それで谷津に仕事をしてもらう、なんて言ったんだな? 警察を巻き込むつもりか」
「市民の義務として、情報提供をしているのですよ。何度も申しますがね、よこしまな理由で地域から神社や寺がなくなるのは、黙って見てられねえんですよ」
「なるほどな……。谷津が俺たちに何も言わないのは、手柄を独り占めにしたいからだな……」
「ただ……」
 阿岐本が言う。「今のままだと、警察だって高森に手出しはできねえでしょう」
「なに、西の直参となれば立派な指定団体だろう。だったら、暴対法で引っ張れる」
「そのためには、高森が指定暴力団の威力を示して暴力的要求をしたことを証明しなければならないでしょう」
「そんなもん、どうにでもなるさ」
「検挙したはいいが不起訴になった、では困るのですよ」
「じゃあ、どうすればいいと言うんだ」
「ですから、我々が情報提供をすると申しておるのです」
 仙川係長はぽかんとした顔になった。
「その情報を谷津と共有しろと言うのか……」
「もし、高森を挙げられたら、いろいろと余罪を追及できるんじゃねえでしょうかね」
 仙川係長は一転して思案顔になる。