しばしの沈黙の後に、彼は言った。
「少し考えてみる」
 それから甘糟に向かって言う。「おい、引きあげるぞ」
「はい……」
 二人が部屋を出ていくと、阿岐本が日村の顔を見て言った。
「何だ? 何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、言いたいことなど……。ただ……」
「ただ、何だ?」
「同業者を売るような気がして、少々気が咎めます」
「言いたいこと、言ってるじゃねえか」
「すいません」
「おめえの言うことは百も承知だよ」
「はあ……」
「けどな、誠司。駒吉神社と西量寺は守らなけりゃならねえ」
「おっしゃるとおりです」
「そのために、俺は喧嘩を覚悟した。喧嘩となれば、なりふり構わず何だってやる。じゃなきゃあ……」
「じゃなきゃ?」
「死んじまうよ」
「わかりました」
「谷津が甘糟さんたちに、何も教えないというのは、どういうことかわかるか?」
「仙川係長も言ってましたが、手柄を独り占めしたいんじゃないでしょうか」
「つまりさ、本気になったってことだよ」
「本気に……」
「谷津は本気で高森を調べて挙げる気になったんだ。そうなりゃ、どうしたって隠密行動になるだろう」
「そういうもんですか」
「そういうもんだよ。さて、ちょっと原磯の様子でも見てくるか」
「また谷津に引っぱられたりしませんか?」
「あいつは、俺たちが投げた獲物に食らいついたんだ。もう俺たちのことなんざ、気にしねえよ」
「稔に用意させます」