原磯の店にやってきたのは午前十一時頃のことだった。阿岐本と日村の姿を見ると、従業員は慌てて奥にいる原磯を呼びに行った。
 原磯は露骨に嫌な顔をした。
「警察に捕まったんじゃないんですか?」
 阿岐本はにこやかにこたえた。
「谷津さんとお話ししただけですよ。別に捕まったわけじゃありません」
「まだ何か用ですか?」
「昨日申し上げたこと、念を押しておこうと思いましてね……」
 そのとき、奥の部屋から誰かが顔を覗かせた。何事かと様子をうかがっているようだ。
 その顔を見て、日村は言った。
「あなたはたしか、区役所の斉木さんでしたね」
 斉木は驚いたように日村を見た。ドアを閉めるに閉められず、立ち尽くしている。
 阿岐本が言った。
「ほう。区役所の……。何かお仕事のお話し中でしたか……」
 原磯が言った。
「ごらんのとおり、取り込んでいるんですよ」
 阿岐本が言う。
「じゃあ、失礼しますが、区役所と不動産業者の組み合わせってのは、何だか怪しい気がしますね」
 原磯が言う。
「怪しいのはあんたらだろう」
 斉木が言った。
「私はべつにやましいことはしていませんよ。地域のためにやっていることです」
「ほう、地域のため」