義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
19
翌日の午前十時過ぎに、甘糟と仙川係長がまたやってきた。
来客用のソファに座らせようとしたが、彼らは頑なにそれを拒んだ。よほどきつくヤクザ者との付き合い方を指導されているようだ。
二人は出入り口付近に立ったままだった。仕方がないので日村も立っていた。
日村が立っているので、若い衆も立っている。座っているのはパソコンの前のテツだけだ。
日村は言った。
「谷津に電話したんでしょう? 何かわかりましたか?」
仙川係長が反感むき出しで言う。
「おまえが谷津って呼び捨てにするな」
甘糟が言った。
「谷津さんは、何も教えてくれないんです」
「マル暴刑事同士でしょう。情報交換とかしないんですか?」
「谷津は特別だよ」
仙川係長が悔しそうに言う。「あいつは、成果を挙げるために情報を独り占めするんだ。知りたいことは他人から聞き出すくせに、自分が握っている情報は出さない」
「そこを聞き出すのが刑事の腕なんじゃないですか?」
すると、仙川係長が甘糟に向かって言った。
「おい、こんなこと言われてるぞ。どうする」