甘糟がおろおろしながら言う。
「いや、俺だって何とか聞き出そうとしたんだよ。でもね、格が違うんだよ。あんたらの言葉で言うと、貫目が違うってやつ?」
「貫禄負けしてどうするんですか」
「逆にあれこれ尋ねられる始末だよ……」
「何を訊かれたんですか?」
「阿岐本組は本当に一本独鈷か。どこか大きな組とのつながりがあるんじゃないか。そんなことを訊かれた」
「何とこたえたんです?」
 甘糟は聞き返してきた。
「あの……。阿岐本組は本当に上位団体とかないの? あるいは、何かの連合に加盟しているとか……」
「ありません」
 だが、実はまったく他団体とつながりがないわけではないらしい。阿岐本が若い頃に、気の合った同業者たちと兄弟盃を交わしたそうだ。
 その兄弟分が後に名のある親分になったりしているらしい。
 日村も詳しいことは知らない。失礼があってはいけないので同業者との関係はなるべく詳細に知っておくことにしているが、阿岐本の若い頃のことは「知る必要はない」と言われているのだ。
 しかし、そうしたつながりがあるから、今の阿岐本の「顔」があるのだと、日村は思っている。
「そうだよね」
 甘糟が言った。「谷津さんにそう言ったんだ。すると、谷津さんは言うんだ。ちゃんと調べておけって」
「今言ったとおりです。うちは間違いなく一本独鈷です」
 甘糟が困った様子で仙川係長の顔を見た。仙川が言った。
「谷津が話してくれないのだから、おまえらに訊くしかない。組長が谷津にしたないしょ話ってのは、いったい何だ?」
「私からはお話しできません」
「何だって?」
「オヤジから許されておりませんので……」