仙川係長が言った。
「だったら、組長に訊こうじゃないか」
「わかりました。少々お待ちください」
「あ、何しようって言うんだ?」
「オヤジから話が聞きたいのでしょう? 都合を訊いてまいります」
 仙川係長は精一杯虚勢を張っているのだ。本当に阿岐本に取り次ぐと言われて慌てている。
 日村は構わずに奥の部屋に行き、ノックをした。
「入(へ)えんな」と言われ、阿岐本に仙川係長と甘糟が来ていることを告げた。
「谷津の件、オヤジから聞きたいと言ってるのですが……」
「ああ、わかった。通しな」
 仙川係長はすっかりビビっているのだが、なんとか表に出すまいとしている。それが見え見えだった。
 ことさらに威厳を保とうと、いかめしい表情だ。
 阿岐本が言った。
「私に訊きたいことって、何です?」
 仙川係長が言った。
「谷津にしたないしょ話の内容を聞きたい」
「ですから、それは谷津さんに訊いていただきたいと……」
「谷津は何も話さない」
「何も……?」
「そうだ。おまえたちは目黒区の不動産屋で谷津に引っぱられたと言ったな。だが、谷津は、どうしておまえたちがその不動産屋にいることを知ったのかとか、何のために署に連行したのかとか、何も話そうとしない」
「そうですか……」
「だから、おまえから聞くしかないんだ」
「聞いてどうなさいます」
「そりゃ……」
 仙川係長が言い淀む。「それ相応の措置を取る」
「相応の措置というのは?」
「それは、話を聞いてから決める」
「一つ、約束していただきたいんですがね」
「何だ」
「話を聞いても、谷津さんの邪魔はしないと……」
「おまえは、谷津の味方をするというのか?」
 阿岐本はかぶりを振った。