「決してそういうわけではありません。ただね、谷津さんにちゃんと動いていただかなければ、私らの命が危ないので」
「命が危ないだと?」
「はい。私らはそういう世界に生きておりますので……」
「い、粋がるなよ」
 仙川係長は完全に気圧されていた。「ヤクザはそうやって、すぐ恰好をつけるんだ」
「別に粋がってはおりません。事実を申し上げているのです」
「いいからもったいぶってないで、話せよ」
「約束していただかないと、話せません」
「谷津の邪魔をしないという約束か?」
「はい。谷津さんには仕事をしていただかないと困ります。そして、仙川係長や甘糟さんには、ただ邪魔しないというだけでなく、谷津さんに協力していただけると助かります」
 阿岐本の狙いは明らかだ。西の直参には単独ではとても太刀打ちできない。だから、利用できるものは何でも利用するつもりだ。
 警察をも利用しようというのだ。
「なんで俺たちが谷津に協力しなけりゃならないんだ」
「でかい捕り物になるかもしれません」
 阿岐本は言った。「成果を挙げられるチャンスだと思います」
「成果を挙げるチャンス」
 仙川係長は、この言葉に弱い。「とにかく、話を聞こう」
「いいでしょう」