何か別の力で歌わせてもらっている

ラストショーは、前日のゲネプロ(本番の間近に、本番と同じメンバー、演出、音響、照明、舞台で行うリハーサル)ではあまり声が出なかったんだ。当日の開演前のリハーサルも実はあまりよくなかった。

ところが不思議なもので、本番は声がしっかり出たんだよな。なんでなのかな。本番で、俺は自分が歌っている気はしなかったんだ。なにか別の力で歌わせてもらっている感覚だったな。

「俺、声は出てるか?」

1部と2部の間の休憩時間にマネージャーに聞いた。

「ばっちり出ています。現役そのものじゃないですか!」

やっぱりな。思った通りの答えだった。

「でも、2部はわかんないぞ」

マネージャーには言ったよ。自分ではないなにかの力で歌っていると感じていたからね。

 

※本稿は、『俺は100歳まで生きると決めた』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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俺は100歳まで生きると決めた』(著:加山雄三/新潮社)

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