家族との距離感について思うこと

本書では家族についても書いています。私が夫のことを「連合い」と書くのはなぜか? 息子はどれくらい成長したのか? がんになった連合いとの日常や故郷の福岡で暮らす父との再会、そして昨年他界した母とのことなどなど。30年近くイギリスに暮らしているので、私の家族観は日本の人たちとは少し違うものになってきているかもしれない。でも、イギリス風になりきっているわけでもないので、その「あわい」の部分が家族についての文章では出てきているかもしれません。

人生後半戦の試練は親の介護と親との死別ですよね。私は若い頃に日本を飛び出したので、親のことは妹にまかせっきりで偉そうなことはいえません。だけど、日本で常識とされている家族観とは、違う家族に対する考え方もあるんだよということを見せてくれたのはイギリスの人たちでした。この国では家族とはいえ、一人一人の「個」が優先します。たとえば日本では生活保護を申請すると、家族に扶養の照会が行くというのがずっと問題になってきましたよね。イギリスでは例えば大富豪の身内がいても、生活保護を受けられます。一人一人、別の人間であり、別の生活をしているという判断です。困っている人がいたら、家族ではなく、社会全体が助けるべきという考え方が基盤になっています。こうしたイギリスの環境で暮らしていると、日本では何でも家族の内部で処理しなさいと言われ過ぎ、制度もそういう設計になり過ぎている気がします。結果として家族でお互いの首を絞め合うようなことにもなりかねず、息苦しいと言う人が多いのもわかる気がする。

子育てにおいても、イギリスではもとより親は親、子どもは子どもという考え方が基本にある。もちろん子どもは愛しいけれど、愛しいからこそ自立させる。子どもは親から離れて暮らし始めますが、それが一般的な家族観なので「寂しい」とか「行かないで」とか、子どもに覆いかぶさるような人はいない。誕生日とかクリスマスといったイベントがあれば集う。たまに会って元気を確認し合えばそれで十分、バラバラの「個」の集合体が家族だという価値観です。

日本には「空の巣症候群」という言葉があるそうですね。せっかく自由な時間ができたのに子離れが寂しいと鬱々として過ごすなんて、こっちではないと思います。うちの息子もカレッジを終え、秋には大学進学のために遠方で暮らすことになりました。私は彼の前では「母ちゃんは寂しい」という顔をしていますが、その実、息子が巣立つ日を待っていたりする(笑)。自分だけの時間、万歳! って。子育て中は息子のために費やす時間が多くて、けっこうそれも楽しんでたつもりですけど、実は抑圧されてた部分もあったんだなと我ながら驚きます。息子が巣立ったら旅費の高いリゾートシーズンに旅行しなくていいじゃん、学校の休みに囚われる必要ないじゃん、って、すごい解放感があります。私、やっぱり「自由」っていうのが何より好きなんですよね。それを思い出す、って感じです。