摂関家の姫君ですら
そして摂関家ですら、働きに出る姫君がいました。
藤原頼通の孫、師通は寛治八年(1094)に33歳で関白になり、時の権力を白河上皇と争ったという、摂関家には珍しい剛直な政治家でしたが、その五年後に急死します。
関白を継いだのは、嫡男の忠実ですが、その妹は斎院女別当、つまり賀茂神社に仕えた斎院、鳥羽天皇の皇女禧子内親王に仕えた女官長になったのです。
また、その姉妹には白河上皇の娘で、やはり斎院だった令子内親王の宣旨(口頭で命令を伝える女房)もいました。
たとえ関白家であろうとも、早くに父を失い、兄弟が当主になることで、その姉妹は、お姫様としての悠々とした立場を失い、それぞれに働き口を見つけて生きていかなければならないーー。
平安時代の女性たちと聞くと、優雅で華やかなイメージがつきものですが、現実にはそういった側面だけではなく、生き抜くために、多くの努力や苦労が要された時代でもあったのです。
『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)
平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。